大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)6048号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判決理由】原告はもと商号を千代田交易株式会社と称し、家具木工造作工事及び室内装飾設計工事請負、船舶車両観光施設に伴う備品の加工販売等を主な目的とする会社で、昭和三三年頃はその営業はもちろんそれに伴う諸設備も殆ど有しないいわば登記簿のみ存在する会社であつた。その頃本件商標権を有し事実上小島千明一人の手によつて運営されていた王様クレヨン株式会社(付表取締役小島千明)が、昭和三三年秋ごろ、その経営不振から不渡手形を出し、営業継続が不可能となつたため、小島千明は、本件商標権が債権者の手に帰することをおそれ、これを原告に移転しようと考えた。

原告は小島千明の指示に従い、昭和三四年二月一二日、株主総会を開き、その商号を現商号に、その目的を描画材の製造販売及びこれに附帯する一切の事業と変更し、従前の役員を退任させた上、新たに永井金一郎、甲斐惟隆、飯島勇、蔵本猛を取締役に選出し、同日開催された取締役会において永井金一郎を代表取締役に選任した。その上で、原告は同年四月六日本件商標権を王様クレヨンから譲り受け、同年八月二〇日その移転登記をした。(中略)

原告は、本件商標権の譲渡に際し原告の営業を被告に譲渡していないから、本件商標権譲渡契約はその効力を生じない旨主張する。

ところで、原告がその商号を千代田交易株式会社と称していたときには、物的人的設備を有せず何等の営業をしていなかつたことは、さきに認定したところである。そして、(証拠―省略)に本件弁論の全趣旨をあわせ考えると、原告はその商号目的を現在のとおりに変更し、本件商標権を譲り受けた後においても、その実体は従前と変ることなく、営業の基礎となる人的、物的設備は全くなく、本件商標権に基く営業を開始しなかつたことを認めることができる。

以上のように、指定商品の営業を有しない商標権者が商標権を譲渡するにあたつては、譲渡人が譲受人に対して指定商品の営業をする意思を承継させることをもつて、旧商標法第一二条にいう「営業とともに」譲渡するという要件を満たすものと解するのが相当である。蓋し、旧商標法第一二条の趣旨は、商標権者が指定商品につき営業をしている場合、その商標と商品は密接不可分の関係にあるとともに、商品を生産販売するための営業も、また商標と一体性を有するところから、商標のみを移転して、その商標が他の営業と結びつくときは、一般需要者がその商品を従来の営業のそれと混同する結果を招来し、結局商標の本来の目的たる商品の出所の標示そのものの効果を失わせることになるのを防止するために、商標に随伴する営業の譲渡をもつて商標権移転の要件としたものと考えられる。そして、その反面、商標に随伴する営業を有しない者においても、将来、その商標を使用して営業をする意思を有すれば、商標権を取得することができることは旧商標法第一条の法意によつて明らかである。以上二つのことを考えあわせると、現に営業を有しない商標権者が商標権を譲渡する場合においては、譲渡人が将来営業をする意思を譲受人に承継させ、自らは今後その営業をする意思を放棄することにより商標権を営業ととも譲渡したことになると解するのが相当である。このように解しても需要者の保護にはなんら欠けるところがないばかりか、当事者の意思にもそうものである。かような場合、商標権者の観念的な営業が譲渡されたとみても、あえてこじつけとはいえないであろう。 (古関敏正 野沢明 荒木恒平は転勤につき署名押印することができない)

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